金属空気二次電池
-要素技術の開発動向と応用展望-
"究極の二次電池" 世界が注目する次々世代電池の開発動向に迫る
発刊日 | 2021年1月28日 |
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体裁 | B5判並製本 212頁 |
価格(税込)
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ISBNコード | 978-4-86428-226-0 |
Cコード | C3058 |
【電池の開発・製造メーカー】【電池材料関連企業】【電池を利用する製品開発者】の方々へ、
次々世代電池として期待される『金属空気二次電池』の最新の技術開発動向を網羅した一冊です。
■リチウム / 亜鉛 / 水素吸蔵合金 / アルミニウム / 鉄など、負極金属材料別の金属空気二次電池の開発動向とその課題。
■更なる性能向上のための正極(空気極)材料 / 電解質・添加剤 / 全固体化に向けた取り組みと開発事例を掲載。
■空気極の性能を高めエネルギー密度向上・効率最大化を達成するために開発が進む、セルの形状とスタックの構造。
■材料開発への利用が進むマテリアルズインフォマティクス(MI)による網羅的探索手法について、事例をもとに解説。
◎負極金属種類別の空気電池の開発動向について、専門家が徹底解説。
【リチウム空気電池】
理論上、最大のエネルギー密度から"究極の二次電池"とも言われるリチウム空気電池。
構造・動作原理・特性から、電解液・スタックの開発動向などについて幅広く解説。
【亜鉛空気電池】
金属材料の安価さと高い理論エネルギー密度から注目される亜鉛空気電池。
一次電池として実用化されている原理の基礎から、二次電池化の研究開発動向について解説。
【水素/空気電池】
材料の安全性・リサイクル性などから再生可能エネルギーの蓄電などに適している水素/空気電池。
最新の開発動向と量産化に向けた取り組みについて解説。
【アルミニウム空気電池】
金属材料が豊富で扱いやすい特徴を持つアルミニウム空気電池。
既存の空気電池との比較から、二次電池化に向けた研究事例と技術課題について解説。
◎金属空気二次電池の要である正極(空気極)の材料毎の最新の開発動向を掲載。
┗グラフェン / カーボンナノチューブ / 異種元素含有カーボン など、材料別に詳述。
◎電解質・添加剤の開発 / 評価 / 設計指南から、全固体化への展望まで幅広く紹介。
┗電解質 / 添加剤 / グライム系電解液/ 固体電解質 の開発動向、全固体型鉄空気電池の開発事例。
◎電池の性能(容量・効率)を高めるためのセル形状 / スタック構造の検討。
┗電解液の種類とセルの形状の関係性、空気二次電池の特徴を生かすためのスタックの構造とは。
◎マテリアルズインフォマティクス(MI)と計算化学を応用した材料探索事例。
┗量子化学計算 / 密度汎関数法 / 回帰分析 など、計算化学を利用した材料探索を事例をもとに解説。
概要
【目次抜粋】 第1章 金属空気二次電池の開発動向 第1節 リチウム空気二次電池の開発動向 第2節 亜鉛空気二次電池の開発動向 第3節 水素/空気二次電池の開発動向とFDK(株)の量産化に向けた取り組み 第4節 アルミニウム空気電池の二次電池化の検討 第2章 正極(空気極)の開発動向 第1節 グラフェンを用いた正極の開発 第2節 カーボンナノチューブを用いた正極の開発 第3節 異種元素含有カーボンを用いた正極材の開発 第3章 電解質の開発動向 第1節 リチウム空気二次電池用電解質および添加剤の開発動向 第2節 グライム系電解液の特徴と開発動向 第3節 金属/空気二次電池用固体電解質の作製と全固体鉄/空気電池の構築 第4章 金属空気二次電池の材料・セル形状とスタックの構造 第5章 マテリアルズインフォマティクスを活用した金属空気電池用材料の網羅的探索 |
各章の内容紹介 <本文抜粋>
「第1章 金属空気二次電池の開発動向」
「第1節 リチウム空気二次電池の開発動向」
空気電池は,空気中の「酸素」を正極活物質とする電池であり,エネルギー密度が非常に高いのが特徴である。中でも,リチウム金属を負極活物質とするリチウム空気電池は,あらゆる電池の中でエネルギー密度が最高となる「究極の二次電池」として知られている。リチウムは酸化還元電位(電極電位)が最も低い「卑な」金属であるため,それを負極に用いることは電池電圧を高くする上で有利である。また,リチウムは原子番号3の最も軽い金属であるため,負極活物質の重量は非常に軽くなる。正極活物質の酸素も空気中から取り入れるため,あらかじめ電池の中に保持する必要がなく,その重量自体も非常に軽い。その結果,この両者を組み合わせたリチウム空気電池は,活物質重量が従来のリチウムイオン電池(LIB)の1/10以下になり,重量エネルギー密度が格段に向上する。リチウム空気電池内部の活物質(リチウム金属)に対する電池容量は3,860mAh/gであり,電圧2.7Vを掛けたエネルギー密度は10,000Wh/kg以上になる(酸素を取り込んだ放電状態のLi2O2に対しては1,170mAh/gおよび3,100Wh/kgとなる)。実際の電池重量には他の部材の重量も加わるため,電池全体としてのエネルギー密度は通常1/3程度になるが,仮に1/10としても1.000Wh/kgとなり,現状のLIBの理論限界(~250Wh/kg)より数倍大きい。……(中略)
リチウム空気二次電池は1996年にAbrahamらによって提唱されたが,その後15年ほどは空気極(正極)反応が不安定であるため大きな進展は見られなかった。しかしその後,電解液にエーテル系溶媒を用いることによってかなり安定した充放電が可能であることがわかり,世界中で活発な研究が行われ電池特性も大幅に向上した。しかし,サイクル特性はまだ数十回レベルであり,これが実用化を阻む大きな壁になっている。大きな課題は,正極における充電過電圧の増大と副反応による劣化,および負極におけるLiデンドライトの生成にある。
本稿では,リチウム空気電池の動作原理と電池特性について説明するとともに,上記の劣化現象の解析と対策に関する最近の進展状況について述べる。また,リチウム空気電池を実用化する上で不可欠なスタック構造についても考察する。……(本文へ続く)
「第2節 亜鉛空気二次電池の開発動向」
亜鉛空気二次電池は正極活物質として空気中の酸素,負極活物質として金属亜鉛を用いる二次電池である。電解液には主にアルカリ水溶液が用いられる。……(中略)
放電時に,負極では金属亜鉛が酸化され酸化亜鉛が生じ,正極においては空気中の酸素が還元され水酸化物イオンが生じる。また,充電時にはこの逆反応が生じる。正極において酸素の酸化還元反応,負極において金属の酸化還元反応が生じる点ではリチウム空気二次電池と同様である。しかし,亜鉛空気二次電池では,負極の放電生成物(酸化亜鉛)が固体として蓄積する点(リチウム空気二次電池では正極の放電生成物(Li2O2)が固体として析出する)と正極活物質である酸素が4電子還元される点(リチウム空気二次電池では酸素は2電子還元される)が異なる。……(中略)
本節では亜鉛空気二次電池の特徴,一次電池としての開発の歴史,二次電池としての研究開発動向を紹介する。……(本文へ続く)
「第3節 水素/空気二次電池の開発動向とFDK(株)の量産化に向けた取り組み」
水素/空気二次電池は,負極に水素吸蔵合金,正極にガス拡散電極(空気極),電解液にアルカリ水溶液を用いた電池であり,一般的にニッケル水素電池と呼ばれるニッケル金属水素化物二次電池のニッケル正極を空気極に代えた構成を取る。電池容量については,空気極では,大気中の酸素を活物質として利用するため,負極の容量に依存するが,ニッケル水素電池に比べて高エネルギー密度が期待できる電池であるといえる。本節では,この電池の概要とこれまでの開発状況を述べるとともに,当社らの研究グループでの取り組み状況を紹介する。……(本文へ続く)
「第4節 アルミニウム空気電池の二次電池化の検討」
リチウムイオン電池に代わる次世代の二次電池の一つの有力な候補として金属空気電池があるが,その中でも大きな電池容量を有する,豊富な資源量,安全性,コストが安くなる,大気中で簡単に製造できる可能性がある候補としてアルミニウム空気電池がある。本節では,イオン液体系の電解液を用い,電極材料などを検討することにより,副生成物が生じない高性能なアルミニウム空気電池を作成することができたので報告する。……(本文へ続く)
「第2章 正極(空気極)の開発動向」
「第1節 グラフェンを用いた正極の開発」
金属空気電池は空気中の酸素を正極とした電池であり,空気極において酸素の電気化学反応(酸素還元反応と酸素発生反応)が起こる。この空気極での電気化学反応における過電圧をいかに抑制できるかが,金属空気電池の出力向上と充放電効率向上の鍵となる。また,充放電における材料の安定性も重要である。本節では,安定に動作する酸素還元酸素発生二元機能空気極としてグラフェンを検討した研究について紹介する。……(本文へ続く)
「第2節 カーボンナノチューブを用いた正極の開発」
……空気極の材料として検討されているのがナノ構造をもつカーボン材料である。これまでに多様なナノカーボン材料,具体的には,カーボンブラック,グラフェン,カーボンゲル,カーボンファイバー,カーボンナノチューブ(CNT)などが空気極材料候補として検討されてきている。これらのナノカーボン材料は高い比表面積をもち,カーボン重量当たりで見ればかなり大きな放電容量,例えば10,000mAh/gcarbonを超える放電容量が得られる空気極をつくることができている。ところが,こうしたナノカーボン材料を電極として有効に固定できるのはせいぜい1mg/cm2ぐらいが限度である。……(中略)
本節ではカーボンナノチューブ(CNT)を用いた空気極の開発について述べる。上記ナノカーボン材料そのものは通常は固体の粉末材料であって,電極利用するには結着材(バインダー)と混練させて支持体(通常は導電性のガス拡散層(GDL)が用いられる)上に強固に塗り固めてシート化させる必要がある。しかしながらこの工程はナノカーボンがもっていたナノ構造をつぶしてしまい,本来の材料特性を引き出すことが難しくなる欠点がある。……(本文へ続く)
「第3節 異種元素含有カーボンを用いた正極材の開発」
……近年,グラファイト構造中に窒素や,酸素,フッ素,塩素等のヘテロ元素を導入した構造を有するヘテロ元素を含有させたカーボン材料がPt代替触媒の候補材料として注目されている。カーボンナノチューブやグラフェン等のグラファイト構造を有するカーボンの表面にはπ電子雲がグラファイト表面に存在しており,ヘテロ元素をドープすることで電荷の偏りが生じるためπ電子雲に分極が生じ,ORR活性が高まると報告されている。ヘテロ元素の中でも,窒素含有カーボンが高いORR活性を発現すると考えられており,多くの研究者により窒素含有カーボンの合成が行われている。
我々のグループでは,Ptや貴金属フリーの触媒材料として,資源が豊富で安価に製造可能な異種元素をドープしたカーボン材料に着目した研究開発を行ってきた。最近,窒素をドープしたカーボンナノ粒子とカーボン繊維を複合化した材料を開発し,そのカーボン複合体のORRに対する触媒性を調査した結果,このカーボン複合体はORRに対して優れた性能を示した。
本節では,ソリューションプラズマ(SP)という液相中での低温非平衡プラズマについて簡単に紹介し,ソリューションプラズマプロセスによる窒素ドープカーボンに関する合成と合成したカーボンの酸素還元反応に対する触媒特性について述べる。……(本文へ続く)
「第3章 電解質の開発動向」
「第1節 リチウム空気二次電池用電解質および添加剤の開発動向」
……リチウム空気電池は,高い還元力を有する金属リチウムと,大気中の酸素を活物質として利用するため,リチウムイオン電池の2~5倍以上のエネルギー密度を実現することが可能であり,次世代蓄電池の最有力候補である。実際に,700 Wh/kgを超えるセルも既に実証されており,リチウム空気電池の有する高いエネルギー密度の潜在能力は非常に魅力的である。リチウム空気電池は,正極の多孔性カーボン電極,セパレータ,電解液,負極の金属リチウムを積層した単純な構造である点や,貴金属などを用いずに安価な材料で構成される点も次世代蓄電池として有望な理由として挙げられる。一方で,サイクル数,パワー密度は,現行のリチウムイオン電池に比べて低い性能にとどまっており,電池性能を向上させるための材料開発が急務である。特に,リチウム空気電池の二次電池化に向けては,電解質の安定性に対する要求は高い。リチウム空気電池用電解質には,正極での酸素活性種に対する高い酸化耐性と,負極における金属リチウムに対する高い還元耐性の両立が求められる。しかしながら,一般的に溶媒は酸化耐性が高ければ還元耐性が低く,逆に還元耐性が高ければ酸化耐性は低い。そのため,リチウムイオン電池と同様に,添加剤などを利用することで副反応を速度論的に抑制し,正極・負極両反応における可逆性向上を目指す戦略が必要となる。本節では,電解質の開発動向について溶媒選定の観点に焦点を当てて全体像を俯瞰する。その上で,添加剤の開発動向について紹介する。……(本文へ続く)
「第2節 グライム系電解液の特徴と開発動向」
前節までに述べられたように,金属空気二次電池は現在市販の蓄電池のなかで最も重宝されているLiイオン電池(LIB)に対し,これを超えるエネルギー密度を示す可能性を有しており,昨今のIoT技術による電子デバイスの高機能化や車の電動化などの進化が著しい社会において益々期待が高まっている。とりわけ,Li空気二次電池(LAB)は化学物質を電極材料とする蓄電池のなかでも最も高い理論エネルギー密度を有しており,LIBの5倍以上の蓄電容量を示すと考えられている。すなわち,実現すれば将来の『夢の電池』となり得る。我が国においても,LABについてはJSTの先端的低炭素化技術開発,通称ALCA SPRING事業にて官学一体になって研究開発に取り組んでいる。本節では,そのようなLABのキーマテリアルの一つである電解液として現状で最も広くかつ研究例も多いグライム系電解液の特徴と開発動向について,我々の研究グループが本事業において研究した成果を含めて概説し,紹介する。……(本文へ続く)
「第3節 金属/空気二次電池用固体電解質の作製と全固体鉄/空気電池の構築」
地球環境保全の観点から,太陽光,風力,バイオマスに代表される再生可能エネルギーの活用が大きな課題となっている。これらの再生可能エネルギーを効率よく貯蔵し,電気エネルギーとして安定に供給するには,高性能な蓄電池の開発が不可欠である。現在の蓄電池の主役はリチウムイオン二次電池(LIB)であるが,電気自動車への搭載やスマートグリッドの用途に向けてはエネルギー密度が不足している。LIBの代替となる有力候補の一つが金属/空気電池である。金属/空気電池は,従来電池を凌ぐ高容量化が達成可能な電池として注目されているが,繰り返し使用可能な二次電池として作動させるには,高容量化や長期耐久性などの実用面の課題を克服する必要がある。また,高活性で安価な正極触媒の開発も重要な課題となっている。本稿では種々の金属/空気電池について概説し,特に我々が取り組んでいる鉄/空気電池の構築と全固体化について紹介する。……(本文へ続く)
「第4章 金属空気二次電池の材料・セル形状とスタックの構造」
……金属空気二次電池の最も大きな特徴は,空気中の酸素を正極活物質として利用する点にある。正極活物質を電池内に組み込む必要がないため,小型軽量化が可能であり,金属空気電池の中ではエネルギー密度が小さいとされる亜鉛空気電池でさえ,350Whkg−1以上の実質エネルギー密度を有する二次電池の作製が可能である。一方で,金属負極のデンドライト成長および自己放電・不働態化の抑制,空気極の反応速度向上と過電圧低減,反応生成物の制御,電池全体のサイクル特性やクーロン効率の向上,安全性の向上など,まだまだ課題は山積している。
特にセル構造の観点からは,放電時に生じる反応生成物を制御して,空気中の酸素を正極活物質として効率よく利用すると同時に,充電時に生じる酸素ガスの逃げ道を確保する必要があり,ガス拡散層と触媒層の積層化やオープンセル構造の利用が検討されている。本章では,金属空気二次電池の材料およびセル形状とスタック構造について記す。次世代の金属空気二次電池開発のための一助となれば幸いである。……(本文へ続く)
「第5章 マテリアルズインフォマティクスを活用した金属空気電池用材料の網羅的探索」
……計算化学技術は一般にMIと親和性がある。材料開発の指針を得るという計算化学の産業応用の観点から見ると,計算化学技術にMIを利用することで,複雑な解析モデルの構築を回避して,材料設計に必要な説明変数と目的変数の間に存在するもっともらしい回帰式を得ることができる。また,計算化学の活用については,通常のMIでは考察が難しいとされる回帰式の物理的背景の考察が容易になるという利点も挙げられる。さらに,MIは原理的にデータベースがないと駆動できないが,計算化学を活用すればデータベースを仮想的に作ることができるため,これらを組み合わせることでMIの適用限界を広げることができる。
本章では,リチウム空気電池の空気極の分子設計にMIと計算化学を応用した。……(本文へ続く)
著者
久保 佳実 | (国研) 物質・材料研究機構 | 齋藤 守弘 | 成蹊大学 | |
野村 晃敬 | (国研) 物質・材料研究機構 | 松田 厚範 | 豊橋技術科学大学 | |
松田 翔一 | (国研) 物質・材料研究機構 | タンワイキアン | 豊橋技術科学大学 | |
池澤 篤憲 | 東京工業大学 | 八木 俊介 | 東京大学 | |
安岡 茂和 | FDK(株) | 高羽 洋充 | 工学院大学 | |
森 良平 | 冨士色素(株) | 宮川 雅矢 | 工学院大学 | |
湯浅 雅賀 | 近畿大学 | 廣澤 史也 | 工学院大学 | |
石﨑 貴裕 | 芝浦工業大学 |
書籍趣旨
本書では金属空気二次電池に関する最新の研究・開発動向について、負極材料別の各種金属空気二次電池の特徴・課題から、正極・電解質など部材毎の開発事例と高機能化への展開、電解質の種類によるセル形状の検討や機能最大化のためのスタック構造の設計、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用した電池材料の網羅的探索まで、専門家による解説を幅広く掲載しています。
最後になりましたが、本書に快くご執筆賜りましたご執筆者の皆様に心から厚く御礼を申し上げますと共に、本書が金属空気二次電池の開発・発展のお役に立つ1冊となれば幸いです。
目次
第1節 リチウム空気二次電池の開発動向
1. リチウム空気二次電池の構造と動作原理
2. リチウム空気二次電池の特性と課題
3. 電解液の改良による特性向上
3.1 レドックスメディエータによる充電過電圧の低減
3.2 混合アニオン系電解液によるデンドライトの抑制
4. スタック開発
第2節 亜鉛空気二次電池の開発動向
1. 亜鉛空気二次電池の特徴
1.1 高いエネルギー密度
1.2 水系電解液を用いることによる高い安全性と出力特性
1.3 放電生成物が負極側に蓄積されることによる高い空気極特性
1.4 安価な亜鉛を用いることによる低コスト化
1.5 リチウム空気二次電池に対する欠点
2. 一次電池としての開発の歴史
2.1 空気極の開発
2.2 亜鉛極の開発
3. 二次電池としての研究開発動向
3.1 空気極の過電圧低減
3.2 空気極の寿命改善
3.3 亜鉛極の寿命改善
3.4 電解液の寿命改善
3.5 メカニカル充電方式
第3節 水素/空気二次電池の開発動向とFDK(株)の量産化に向けた取り組み
1. 空気電池の二次電池化の課題
2. 水素/空気二次電池の反応式
3. 水素/空気二次電池の特徴
4. 水素/空気二次電池の開発状況
4.1 水素吸蔵合金負極の開発
4.1.1 水素吸蔵合金負極に対する要求事項
4.1.2 水素吸蔵合金の選択
4.1.3 水素吸蔵合金負極の電極構成
4.2 空気極の開発
4.2.1 空気極に対する要求事項
4.2.2 酸素触媒の選択
4.2.3 空気極の開発
4.3 水素/空気二次電池のセル開発
4.3.1 充放電サイクル特性の改善
5. FDK(株)での量産化に向けた取り組み
5.1 10 Ahセルの開発
5.2 水素/空気電池二次電池の積層セルの検討
6. 今後の展開
第4節 アルミニウム空気電池の二次電池化の検討
1. 研究背景
2. 結果と考察
2.1 水系電解質を用いたアルミニウム空気電池(準二次電池)
2.2 イオン液体系電解質を用いたアルミニウム空気電池(二次電池)
3. 問題点
第2章 正極(空気極)の開発動向
第1節 グラフェンを用いた正極の開発
1. 空気極の構成
2. 酸素発生反応における空気極の課題
3. グラフェンの合成
3.1 化学剥離法によるグラフェンの合成方法
3.2 物性評価
4. 電気化学特性の評価
4.1 グラフェンのアノード酸化耐久性評価
4.1.1 アノード酸化耐久性評価方法
4.1.2 アノード酸化耐久性評価結果
4.2 グラフェンを用いた空気極の酸素還元・酸素発生活性評価
4.2.1 空気極の作製方法と酸素還元活性・酸素発生活性評価方法
4.2.2 回転リングディスク電極を用いた酸素還元経路の解析方法
4.2.3 グラフェンの酸素還元・酸素発生活性の評価結果
4.3 ペロブスカイト型酸化物触媒の担持効果
4.3.1 ペロブスカイト型触媒の担持方法
4.3.2 ペロブスカイト型酸化物担持グラフェンの酸素還元・酸素発生活性
第2節 カーボンナノチューブを用いた正極の開発
1. カーボンナノチューブ空気極の放電容量
2. カーボンナノチューブ空気極のレート特性
第3節 異種元素含有カーボンを用いた正極材の開発
1. ソリューションプラズマとは
2. ソリューションプラズマによる窒素含有カーボン材料の合成
2.1 窒素含有カーボン材料の合成
2.2 合成した窒素含有カーボン材料の酸素還元反応に対する触媒特性
2.3 窒素含有カーボン系複合材料の合成
2.4 合成した窒素含有カーボン複合材料の酸素還元反応に対する触媒特性
2.5 合成した窒素含有カーボン複合材料を正極材に用いた充放電特性
第3章 電解質の開発動向
第1節 リチウム空気二次電池用電解質および添加剤の開発動向
1. 電解質の評価手法
1.1 電解質の安定性評価
1.2 Cyclic voltammetry測定
1.3 in situ mass spectrometry測定
1.4 in situ分光測定
2. 電解質開発動向
2.1 エーテル
2.2 スルホキシド
2.3 アミド
2.4 リン酸エステル
2.5 イオン液体
3. 酸素正極用の添加剤開発動向
3.1 Li2O2の溶解性
3.2 溶解性触媒
3.3 Li2O2の電子伝導性
4. 金属リチウム負極用の添加剤開発動向
4.1 大気成分が与える影響
4.2 正極とのクロスオーバーが与える影響
4.3 複数化合物で構成される添加剤:協調効果の積極的な利用
第2節 グライム系電解液の特徴と開発動向
1. 非水系LABのグライム系電解液
2. グライム系電解液の特徴と設計指針
2.1 グライム系電解液の電解液物性
2.2 イオン導電率向上のための設計指針
3. レドックスメディエータとLiNO3/G4電解液
3.1 LiNO3/G4電解液の二元機能と課題
3.2 デュアル溶媒化によるLiNO3/G4電解液の物性向上
第3節 金属/空気二次電池用固体電解質の作製と全固体鉄/空気電池の構築
1. 金属/空気電池
2. 鉄/空気電池
3. 酸化鉄担持カーボン負極の作製
4. ゾル-ゲル法によるKOH-ZrO2固体電解質の作製
5. 全固体型鉄/空気電池の構築
第4章 金属空気二次電池の材料・セル形状とスタックの構造
1. 金属空気二次電池の材料・セル形状
1.1 負極活物質
1.2 電解液とセル形状
1.2.1 水溶液系電解液
1.2.2 非水溶液系電解液
1.2.3 固体電解質
2. スタック(積層)構造
3. その他のセルの形状
第5章 マテリアルズインフォマティクスを活用した金属空気電池用材料の網羅的探索
1. 量子化学計算
1.1 概論
1.2 密度汎関数法
2. 回帰分析
3. リチウム空気電池のORR触媒の探索方法
4. β-MnO2のORRに影響を与える因子と触媒のエネルギー準位の関係
5. 第4, 5, 6周期金属酸化物触媒への展開
6. 新規金属酸化物触媒の網羅的探索:計算モデルの作製とエネルギー計算
7. 新規金属酸化物触媒の網羅的探索:
d-band centerのエネルギー準位による酸素分子の結合長の変化およびORR活性の予測
概要
【目次抜粋】 第1章 金属空気二次電池の開発動向 第1節 リチウム空気二次電池の開発動向 第2節 亜鉛空気二次電池の開発動向 第3節 水素/空気二次電池の開発動向とFDK(株)の量産化に向けた取り組み 第4節 アルミニウム空気電池の二次電池化の検討 第2章 正極(空気極)の開発動向 第1節 グラフェンを用いた正極の開発 第2節 カーボンナノチューブを用いた正極の開発 第3節 異種元素含有カーボンを用いた正極材の開発 第3章 電解質の開発動向 第1節 リチウム空気二次電池用電解質および添加剤の開発動向 第2節 グライム系電解液の特徴と開発動向 第3節 金属/空気二次電池用固体電解質の作製と全固体鉄/空気電池の構築 第4章 金属空気二次電池の材料・セル形状とスタックの構造 第5章 マテリアルズインフォマティクスを活用した金属空気電池用材料の網羅的探索 |
各章の内容紹介 <本文抜粋>
「第1章 金属空気二次電池の開発動向」
「第1節 リチウム空気二次電池の開発動向」
空気電池は,空気中の「酸素」を正極活物質とする電池であり,エネルギー密度が非常に高いのが特徴である。中でも,リチウム金属を負極活物質とするリチウム空気電池は,あらゆる電池の中でエネルギー密度が最高となる「究極の二次電池」として知られている。リチウムは酸化還元電位(電極電位)が最も低い「卑な」金属であるため,それを負極に用いることは電池電圧を高くする上で有利である。また,リチウムは原子番号3の最も軽い金属であるため,負極活物質の重量は非常に軽くなる。正極活物質の酸素も空気中から取り入れるため,あらかじめ電池の中に保持する必要がなく,その重量自体も非常に軽い。その結果,この両者を組み合わせたリチウム空気電池は,活物質重量が従来のリチウムイオン電池(LIB)の1/10以下になり,重量エネルギー密度が格段に向上する。リチウム空気電池内部の活物質(リチウム金属)に対する電池容量は3,860mAh/gであり,電圧2.7Vを掛けたエネルギー密度は10,000Wh/kg以上になる(酸素を取り込んだ放電状態のLi2O2に対しては1,170mAh/gおよび3,100Wh/kgとなる)。実際の電池重量には他の部材の重量も加わるため,電池全体としてのエネルギー密度は通常1/3程度になるが,仮に1/10としても1.000Wh/kgとなり,現状のLIBの理論限界(~250Wh/kg)より数倍大きい。……(中略)
リチウム空気二次電池は1996年にAbrahamらによって提唱されたが,その後15年ほどは空気極(正極)反応が不安定であるため大きな進展は見られなかった。しかしその後,電解液にエーテル系溶媒を用いることによってかなり安定した充放電が可能であることがわかり,世界中で活発な研究が行われ電池特性も大幅に向上した。しかし,サイクル特性はまだ数十回レベルであり,これが実用化を阻む大きな壁になっている。大きな課題は,正極における充電過電圧の増大と副反応による劣化,および負極におけるLiデンドライトの生成にある。
本稿では,リチウム空気電池の動作原理と電池特性について説明するとともに,上記の劣化現象の解析と対策に関する最近の進展状況について述べる。また,リチウム空気電池を実用化する上で不可欠なスタック構造についても考察する。……(本文へ続く)
「第2節 亜鉛空気二次電池の開発動向」
亜鉛空気二次電池は正極活物質として空気中の酸素,負極活物質として金属亜鉛を用いる二次電池である。電解液には主にアルカリ水溶液が用いられる。……(中略)
放電時に,負極では金属亜鉛が酸化され酸化亜鉛が生じ,正極においては空気中の酸素が還元され水酸化物イオンが生じる。また,充電時にはこの逆反応が生じる。正極において酸素の酸化還元反応,負極において金属の酸化還元反応が生じる点ではリチウム空気二次電池と同様である。しかし,亜鉛空気二次電池では,負極の放電生成物(酸化亜鉛)が固体として蓄積する点(リチウム空気二次電池では正極の放電生成物(Li2O2)が固体として析出する)と正極活物質である酸素が4電子還元される点(リチウム空気二次電池では酸素は2電子還元される)が異なる。……(中略)
本節では亜鉛空気二次電池の特徴,一次電池としての開発の歴史,二次電池としての研究開発動向を紹介する。……(本文へ続く)
「第3節 水素/空気二次電池の開発動向とFDK(株)の量産化に向けた取り組み」
水素/空気二次電池は,負極に水素吸蔵合金,正極にガス拡散電極(空気極),電解液にアルカリ水溶液を用いた電池であり,一般的にニッケル水素電池と呼ばれるニッケル金属水素化物二次電池のニッケル正極を空気極に代えた構成を取る。電池容量については,空気極では,大気中の酸素を活物質として利用するため,負極の容量に依存するが,ニッケル水素電池に比べて高エネルギー密度が期待できる電池であるといえる。本節では,この電池の概要とこれまでの開発状況を述べるとともに,当社らの研究グループでの取り組み状況を紹介する。……(本文へ続く)
「第4節 アルミニウム空気電池の二次電池化の検討」
リチウムイオン電池に代わる次世代の二次電池の一つの有力な候補として金属空気電池があるが,その中でも大きな電池容量を有する,豊富な資源量,安全性,コストが安くなる,大気中で簡単に製造できる可能性がある候補としてアルミニウム空気電池がある。本節では,イオン液体系の電解液を用い,電極材料などを検討することにより,副生成物が生じない高性能なアルミニウム空気電池を作成することができたので報告する。……(本文へ続く)
「第2章 正極(空気極)の開発動向」
「第1節 グラフェンを用いた正極の開発」
金属空気電池は空気中の酸素を正極とした電池であり,空気極において酸素の電気化学反応(酸素還元反応と酸素発生反応)が起こる。この空気極での電気化学反応における過電圧をいかに抑制できるかが,金属空気電池の出力向上と充放電効率向上の鍵となる。また,充放電における材料の安定性も重要である。本節では,安定に動作する酸素還元酸素発生二元機能空気極としてグラフェンを検討した研究について紹介する。……(本文へ続く)
「第2節 カーボンナノチューブを用いた正極の開発」
……空気極の材料として検討されているのがナノ構造をもつカーボン材料である。これまでに多様なナノカーボン材料,具体的には,カーボンブラック,グラフェン,カーボンゲル,カーボンファイバー,カーボンナノチューブ(CNT)などが空気極材料候補として検討されてきている。これらのナノカーボン材料は高い比表面積をもち,カーボン重量当たりで見ればかなり大きな放電容量,例えば10,000mAh/gcarbonを超える放電容量が得られる空気極をつくることができている。ところが,こうしたナノカーボン材料を電極として有効に固定できるのはせいぜい1mg/cm2ぐらいが限度である。……(中略)
本節ではカーボンナノチューブ(CNT)を用いた空気極の開発について述べる。上記ナノカーボン材料そのものは通常は固体の粉末材料であって,電極利用するには結着材(バインダー)と混練させて支持体(通常は導電性のガス拡散層(GDL)が用いられる)上に強固に塗り固めてシート化させる必要がある。しかしながらこの工程はナノカーボンがもっていたナノ構造をつぶしてしまい,本来の材料特性を引き出すことが難しくなる欠点がある。……(本文へ続く)
「第3節 異種元素含有カーボンを用いた正極材の開発」
……近年,グラファイト構造中に窒素や,酸素,フッ素,塩素等のヘテロ元素を導入した構造を有するヘテロ元素を含有させたカーボン材料がPt代替触媒の候補材料として注目されている。カーボンナノチューブやグラフェン等のグラファイト構造を有するカーボンの表面にはπ電子雲がグラファイト表面に存在しており,ヘテロ元素をドープすることで電荷の偏りが生じるためπ電子雲に分極が生じ,ORR活性が高まると報告されている。ヘテロ元素の中でも,窒素含有カーボンが高いORR活性を発現すると考えられており,多くの研究者により窒素含有カーボンの合成が行われている。
我々のグループでは,Ptや貴金属フリーの触媒材料として,資源が豊富で安価に製造可能な異種元素をドープしたカーボン材料に着目した研究開発を行ってきた。最近,窒素をドープしたカーボンナノ粒子とカーボン繊維を複合化した材料を開発し,そのカーボン複合体のORRに対する触媒性を調査した結果,このカーボン複合体はORRに対して優れた性能を示した。
本節では,ソリューションプラズマ(SP)という液相中での低温非平衡プラズマについて簡単に紹介し,ソリューションプラズマプロセスによる窒素ドープカーボンに関する合成と合成したカーボンの酸素還元反応に対する触媒特性について述べる。……(本文へ続く)
「第3章 電解質の開発動向」
「第1節 リチウム空気二次電池用電解質および添加剤の開発動向」
……リチウム空気電池は,高い還元力を有する金属リチウムと,大気中の酸素を活物質として利用するため,リチウムイオン電池の2~5倍以上のエネルギー密度を実現することが可能であり,次世代蓄電池の最有力候補である。実際に,700 Wh/kgを超えるセルも既に実証されており,リチウム空気電池の有する高いエネルギー密度の潜在能力は非常に魅力的である。リチウム空気電池は,正極の多孔性カーボン電極,セパレータ,電解液,負極の金属リチウムを積層した単純な構造である点や,貴金属などを用いずに安価な材料で構成される点も次世代蓄電池として有望な理由として挙げられる。一方で,サイクル数,パワー密度は,現行のリチウムイオン電池に比べて低い性能にとどまっており,電池性能を向上させるための材料開発が急務である。特に,リチウム空気電池の二次電池化に向けては,電解質の安定性に対する要求は高い。リチウム空気電池用電解質には,正極での酸素活性種に対する高い酸化耐性と,負極における金属リチウムに対する高い還元耐性の両立が求められる。しかしながら,一般的に溶媒は酸化耐性が高ければ還元耐性が低く,逆に還元耐性が高ければ酸化耐性は低い。そのため,リチウムイオン電池と同様に,添加剤などを利用することで副反応を速度論的に抑制し,正極・負極両反応における可逆性向上を目指す戦略が必要となる。本節では,電解質の開発動向について溶媒選定の観点に焦点を当てて全体像を俯瞰する。その上で,添加剤の開発動向について紹介する。……(本文へ続く)
「第2節 グライム系電解液の特徴と開発動向」
前節までに述べられたように,金属空気二次電池は現在市販の蓄電池のなかで最も重宝されているLiイオン電池(LIB)に対し,これを超えるエネルギー密度を示す可能性を有しており,昨今のIoT技術による電子デバイスの高機能化や車の電動化などの進化が著しい社会において益々期待が高まっている。とりわけ,Li空気二次電池(LAB)は化学物質を電極材料とする蓄電池のなかでも最も高い理論エネルギー密度を有しており,LIBの5倍以上の蓄電容量を示すと考えられている。すなわち,実現すれば将来の『夢の電池』となり得る。我が国においても,LABについてはJSTの先端的低炭素化技術開発,通称ALCA SPRING事業にて官学一体になって研究開発に取り組んでいる。本節では,そのようなLABのキーマテリアルの一つである電解液として現状で最も広くかつ研究例も多いグライム系電解液の特徴と開発動向について,我々の研究グループが本事業において研究した成果を含めて概説し,紹介する。……(本文へ続く)
「第3節 金属/空気二次電池用固体電解質の作製と全固体鉄/空気電池の構築」
地球環境保全の観点から,太陽光,風力,バイオマスに代表される再生可能エネルギーの活用が大きな課題となっている。これらの再生可能エネルギーを効率よく貯蔵し,電気エネルギーとして安定に供給するには,高性能な蓄電池の開発が不可欠である。現在の蓄電池の主役はリチウムイオン二次電池(LIB)であるが,電気自動車への搭載やスマートグリッドの用途に向けてはエネルギー密度が不足している。LIBの代替となる有力候補の一つが金属/空気電池である。金属/空気電池は,従来電池を凌ぐ高容量化が達成可能な電池として注目されているが,繰り返し使用可能な二次電池として作動させるには,高容量化や長期耐久性などの実用面の課題を克服する必要がある。また,高活性で安価な正極触媒の開発も重要な課題となっている。本稿では種々の金属/空気電池について概説し,特に我々が取り組んでいる鉄/空気電池の構築と全固体化について紹介する。……(本文へ続く)
「第4章 金属空気二次電池の材料・セル形状とスタックの構造」
……金属空気二次電池の最も大きな特徴は,空気中の酸素を正極活物質として利用する点にある。正極活物質を電池内に組み込む必要がないため,小型軽量化が可能であり,金属空気電池の中ではエネルギー密度が小さいとされる亜鉛空気電池でさえ,350Whkg−1以上の実質エネルギー密度を有する二次電池の作製が可能である。一方で,金属負極のデンドライト成長および自己放電・不働態化の抑制,空気極の反応速度向上と過電圧低減,反応生成物の制御,電池全体のサイクル特性やクーロン効率の向上,安全性の向上など,まだまだ課題は山積している。
特にセル構造の観点からは,放電時に生じる反応生成物を制御して,空気中の酸素を正極活物質として効率よく利用すると同時に,充電時に生じる酸素ガスの逃げ道を確保する必要があり,ガス拡散層と触媒層の積層化やオープンセル構造の利用が検討されている。本章では,金属空気二次電池の材料およびセル形状とスタック構造について記す。次世代の金属空気二次電池開発のための一助となれば幸いである。……(本文へ続く)
「第5章 マテリアルズインフォマティクスを活用した金属空気電池用材料の網羅的探索」
……計算化学技術は一般にMIと親和性がある。材料開発の指針を得るという計算化学の産業応用の観点から見ると,計算化学技術にMIを利用することで,複雑な解析モデルの構築を回避して,材料設計に必要な説明変数と目的変数の間に存在するもっともらしい回帰式を得ることができる。また,計算化学の活用については,通常のMIでは考察が難しいとされる回帰式の物理的背景の考察が容易になるという利点も挙げられる。さらに,MIは原理的にデータベースがないと駆動できないが,計算化学を活用すればデータベースを仮想的に作ることができるため,これらを組み合わせることでMIの適用限界を広げることができる。
本章では,リチウム空気電池の空気極の分子設計にMIと計算化学を応用した。……(本文へ続く)
著者
久保 佳実 | (国研) 物質・材料研究機構 | 齋藤 守弘 | 成蹊大学 | |
野村 晃敬 | (国研) 物質・材料研究機構 | 松田 厚範 | 豊橋技術科学大学 | |
松田 翔一 | (国研) 物質・材料研究機構 | タンワイキアン | 豊橋技術科学大学 | |
池澤 篤憲 | 東京工業大学 | 八木 俊介 | 東京大学 | |
安岡 茂和 | FDK(株) | 高羽 洋充 | 工学院大学 | |
森 良平 | 冨士色素(株) | 宮川 雅矢 | 工学院大学 | |
湯浅 雅賀 | 近畿大学 | 廣澤 史也 | 工学院大学 | |
石﨑 貴裕 | 芝浦工業大学 |
書籍趣旨
本書では金属空気二次電池に関する最新の研究・開発動向について、負極材料別の各種金属空気二次電池の特徴・課題から、正極・電解質など部材毎の開発事例と高機能化への展開、電解質の種類によるセル形状の検討や機能最大化のためのスタック構造の設計、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用した電池材料の網羅的探索まで、専門家による解説を幅広く掲載しています。
最後になりましたが、本書に快くご執筆賜りましたご執筆者の皆様に心から厚く御礼を申し上げますと共に、本書が金属空気二次電池の開発・発展のお役に立つ1冊となれば幸いです。
目次
第1節 リチウム空気二次電池の開発動向
1. リチウム空気二次電池の構造と動作原理
2. リチウム空気二次電池の特性と課題
3. 電解液の改良による特性向上
3.1 レドックスメディエータによる充電過電圧の低減
3.2 混合アニオン系電解液によるデンドライトの抑制
4. スタック開発
第2節 亜鉛空気二次電池の開発動向
1. 亜鉛空気二次電池の特徴
1.1 高いエネルギー密度
1.2 水系電解液を用いることによる高い安全性と出力特性
1.3 放電生成物が負極側に蓄積されることによる高い空気極特性
1.4 安価な亜鉛を用いることによる低コスト化
1.5 リチウム空気二次電池に対する欠点
2. 一次電池としての開発の歴史
2.1 空気極の開発
2.2 亜鉛極の開発
3. 二次電池としての研究開発動向
3.1 空気極の過電圧低減
3.2 空気極の寿命改善
3.3 亜鉛極の寿命改善
3.4 電解液の寿命改善
3.5 メカニカル充電方式
第3節 水素/空気二次電池の開発動向とFDK(株)の量産化に向けた取り組み
1. 空気電池の二次電池化の課題
2. 水素/空気二次電池の反応式
3. 水素/空気二次電池の特徴
4. 水素/空気二次電池の開発状況
4.1 水素吸蔵合金負極の開発
4.1.1 水素吸蔵合金負極に対する要求事項
4.1.2 水素吸蔵合金の選択
4.1.3 水素吸蔵合金負極の電極構成
4.2 空気極の開発
4.2.1 空気極に対する要求事項
4.2.2 酸素触媒の選択
4.2.3 空気極の開発
4.3 水素/空気二次電池のセル開発
4.3.1 充放電サイクル特性の改善
5. FDK(株)での量産化に向けた取り組み
5.1 10 Ahセルの開発
5.2 水素/空気電池二次電池の積層セルの検討
6. 今後の展開
第4節 アルミニウム空気電池の二次電池化の検討
1. 研究背景
2. 結果と考察
2.1 水系電解質を用いたアルミニウム空気電池(準二次電池)
2.2 イオン液体系電解質を用いたアルミニウム空気電池(二次電池)
3. 問題点
第2章 正極(空気極)の開発動向
第1節 グラフェンを用いた正極の開発
1. 空気極の構成
2. 酸素発生反応における空気極の課題
3. グラフェンの合成
3.1 化学剥離法によるグラフェンの合成方法
3.2 物性評価
4. 電気化学特性の評価
4.1 グラフェンのアノード酸化耐久性評価
4.1.1 アノード酸化耐久性評価方法
4.1.2 アノード酸化耐久性評価結果
4.2 グラフェンを用いた空気極の酸素還元・酸素発生活性評価
4.2.1 空気極の作製方法と酸素還元活性・酸素発生活性評価方法
4.2.2 回転リングディスク電極を用いた酸素還元経路の解析方法
4.2.3 グラフェンの酸素還元・酸素発生活性の評価結果
4.3 ペロブスカイト型酸化物触媒の担持効果
4.3.1 ペロブスカイト型触媒の担持方法
4.3.2 ペロブスカイト型酸化物担持グラフェンの酸素還元・酸素発生活性
第2節 カーボンナノチューブを用いた正極の開発
1. カーボンナノチューブ空気極の放電容量
2. カーボンナノチューブ空気極のレート特性
第3節 異種元素含有カーボンを用いた正極材の開発
1. ソリューションプラズマとは
2. ソリューションプラズマによる窒素含有カーボン材料の合成
2.1 窒素含有カーボン材料の合成
2.2 合成した窒素含有カーボン材料の酸素還元反応に対する触媒特性
2.3 窒素含有カーボン系複合材料の合成
2.4 合成した窒素含有カーボン複合材料の酸素還元反応に対する触媒特性
2.5 合成した窒素含有カーボン複合材料を正極材に用いた充放電特性
第3章 電解質の開発動向
第1節 リチウム空気二次電池用電解質および添加剤の開発動向
1. 電解質の評価手法
1.1 電解質の安定性評価
1.2 Cyclic voltammetry測定
1.3 in situ mass spectrometry測定
1.4 in situ分光測定
2. 電解質開発動向
2.1 エーテル
2.2 スルホキシド
2.3 アミド
2.4 リン酸エステル
2.5 イオン液体
3. 酸素正極用の添加剤開発動向
3.1 Li2O2の溶解性
3.2 溶解性触媒
3.3 Li2O2の電子伝導性
4. 金属リチウム負極用の添加剤開発動向
4.1 大気成分が与える影響
4.2 正極とのクロスオーバーが与える影響
4.3 複数化合物で構成される添加剤:協調効果の積極的な利用
第2節 グライム系電解液の特徴と開発動向
1. 非水系LABのグライム系電解液
2. グライム系電解液の特徴と設計指針
2.1 グライム系電解液の電解液物性
2.2 イオン導電率向上のための設計指針
3. レドックスメディエータとLiNO3/G4電解液
3.1 LiNO3/G4電解液の二元機能と課題
3.2 デュアル溶媒化によるLiNO3/G4電解液の物性向上
第3節 金属/空気二次電池用固体電解質の作製と全固体鉄/空気電池の構築
1. 金属/空気電池
2. 鉄/空気電池
3. 酸化鉄担持カーボン負極の作製
4. ゾル-ゲル法によるKOH-ZrO2固体電解質の作製
5. 全固体型鉄/空気電池の構築
第4章 金属空気二次電池の材料・セル形状とスタックの構造
1. 金属空気二次電池の材料・セル形状
1.1 負極活物質
1.2 電解液とセル形状
1.2.1 水溶液系電解液
1.2.2 非水溶液系電解液
1.2.3 固体電解質
2. スタック(積層)構造
3. その他のセルの形状
第5章 マテリアルズインフォマティクスを活用した金属空気電池用材料の網羅的探索
1. 量子化学計算
1.1 概論
1.2 密度汎関数法
2. 回帰分析
3. リチウム空気電池のORR触媒の探索方法
4. β-MnO2のORRに影響を与える因子と触媒のエネルギー準位の関係
5. 第4, 5, 6周期金属酸化物触媒への展開
6. 新規金属酸化物触媒の網羅的探索:計算モデルの作製とエネルギー計算
7. 新規金属酸化物触媒の網羅的探索:
d-band centerのエネルギー準位による酸素分子の結合長の変化およびORR活性の予測
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